日本のワインぶどうの父
「川上善兵衛」
「岩の原葡萄園」は上越市郊外にあるワイナリー。日本のワイン造りの基礎を築き、「日本のワインぶどうの父」と呼ばれた川上善兵衛が1890年に開設した。1868年、現在の上越市で生まれた善兵衛は15歳で慶應義塾の門を叩き、親交のあった勝海舟からワインのことを教わる。22歳で葡萄園を開墾。特に力を入れたのが、地域に適したぶどうの品種開発であった。10311回の品種交雑と試行錯誤を重ね、22の品種を生み出すことに成功。その中でもマスカット・ベーリーAは現在、国内ワイナリーの赤ワイン用品種受入量の約1/3にまで普及している。ワインに生涯を捧げた善兵衛。彼の研究をまとめた書物は、ワイン造りに挑戦する人々のバイブルとなっている。
岩の原葡萄園を開いた翌年、23歳の善兵衛。
雪室を利用したワイン醸造
善兵衛は、ワイン醸造に雪口の利雪技術を応用した。生物の活動である発酵は、温度によって様々な影響を受ける。発酵温度のコントロールがワイン醸造に重要だと気づいた善兵衛は、日本酒の寒造りをヒントに、低温をキープしようと考えた。そこで「第二号石蔵」に雪室を併設し、保存した雪で発酵桶の周りを囲むことで、雪国ならではの冷却技術を実現したのだ。こうして、日本初の低温発酵・低温熟成のワインが上越の雪室によって誕生したのである。また現在、岩の原葡萄園から近い妙油集落にも古い雪室が残っている。雪をかやの屋根で覆って夏まで貯蔵し、高田城下の魚屋に販売していたそうだ。
現在の第二号石蔵。上越市の文化財に指定されている。
最新技術で雪室を再建
それから100年。岩の原葡萄園で発酵と熟成の温度管理に使われているのは、ジャケットタンクや電気冷房といった現代の技術である。だが2005年、CO2の発生量削減による温暖化対策を目的に、雪室は復活を遂げた。善兵衛の思いを再現することを目指し、雪だるま財団が設計を担当。電気冷房から雪冷房に変えることで、年間約4トンのCO2削減に成功した。最新技術によって再建された雪室は、冷却機能だけでなく、雪を直接利用したワインの熟成も実現している。さらに季節を問わずワイナリーの見学者たちに雪国を体験してもらうこともできる。雪国ならではの知恵と技術を活用したエコなワイナリーとして、岩の原葡萄園は多くのワイン好きから愛され続けている。
善兵衛の意志を継ぎ、上質なぶどうとワインをつくり続ける岩の原葡萄園。